悪の芽/貫井徳郎著 無差別殺人の犯人は昔自分がいじめた奴だった

読書感想文

個人的な感想としては関係ないと思うぞ。

それは個人によって考え方が違うと思うけれど、

自分の発言がだいぶ後になって何かの原因となるのは稀だと思います。

あの無差別大量殺人はおれのせいなのか

アニフェスで無差別大量殺人をし、その後自分にも火をつけ、自殺してしまった犯人は同級生でした。

エリート銀行員の安達は、

自分のいじめが原因でこのような事件が起きてしまったのではないかと

パニック障害を患ってしまいました。

小さなことからイジメが始まり、人生が変わってしまう。

誰にでも起こり得ることだと思いました。

ひとつの事件を加害者、被害者、その家族、関係者といろんな角度からいろんな考えでみさせてくれる小説でした。

亀谷壮弥 かめたにそうや

事件現場をスマホで撮影をしました。

事件当日、アニコン会場に入るため並んでいたところ、事件が起きました。

残虐極まりない現場でした。

加害者の男が身体の下に子どもを隠している女性を

襲わなかったことが不思議でした。

亀谷は撮影した動画がきっかけとなり、大学では目立つ存在になります。

同じアニコン会場に来ていた同級生と親しくなります。

彼女はコスプレイヤーでした。

ですが、亀谷が犯人が貢いでいたと思われるキャバ嬢を突き止めようとしたことで、仲違いしてしまいます。

もしそのキャバ嬢が特定できたら、その女性がどうなるのか亀谷にはそこまで想像できませんでした。

安達 周 あだちしゅう

大手銀行コーポレート・ファイナンス部課長で出世街道を進んでいます。

世田谷区用賀の一戸建て住宅を持っています。

妻(美春)と2人の子どもがいます

無差別大量殺人をニュースで知った時はどうということもなかったのですが、何かが引っかかりました。

その犯人が小学校の同級生と思い出し、彼は「悪の芽」は自分でなかったかとパニック障害になってしまいます。

休職し、安達は斎木を調べはじめ、真相を知っていくのでした。

安達の小学生時代 エピソード

安達は勉強しなくても勉強ができたけれども、エリート意識もなく回りを見下すこともありませんでした。

しかし

時折、他の生徒にイラつくことがありました。

班ごとに決める壁新聞のテーマでの話し合い、

安達が江戸城を作ったのは徳川家康と言ったところ、

斎木は太田道灌だと言い直したのです。

斎木は安達を侮ったわけではなく、単に事実を言っただけなのですが、

安達としては屈辱でした。

小学生時代は男子は学校で大便をするのはとても恥ずかしい行為でした。

安達はわざわざ誰にも見つからないトイレを選び、そこで用を足し出てきたところ、

偶然斎木が入ってきました。

斎木は安達にとって、気に入らない存在になっていました。

それからはいつも斎木を疎ましく思っていました。

きっかけは国語の授業で「均」という字を習っている時でした。

斎木 均 を

さいききん

変な名前だと思ったことを休み時間にみんなの前で言ったのです。

「さいききん、か。細菌みたいな名前だな。菌が移りそうだ」

これに食いついたのが真壁という男子でした。

斎木 均 さいきひとし

真壁の斎木に対する攻撃は理由もなく始まりました。

最初は

ドッジボールで斎木にぶつけたボールは斎木の菌がついているからと誰も拾わなくなったり、

給食当番なのに、斎木はばい菌がついているから給仕に加わらせないとか

真壁だけでなくクラスメートも加わって面白がっていたのです。

小学5年生の2学期から不登校。

安達はいじめのきっかけは作ったが、何もしなかった、

いじめ行為には加担していません。

安達美春

安達の妻。

病気になった安達を支えます。

いじめの発端を作ったなら、悪いけど、犯人は何億倍も悪いし、安達が殺人事件の理由を作ったなんてことではないと

適格な意見を言ってくれました。

献身的に安達を支え、犯罪生物学の話もしてくれました。

こんなひどい事件を起こす人はもともとそういう人だったんだってこと。

いじめによってその人の人生が変わることはあるかもしれないけど、大事件の犯人になるかどうかは別の要因じゃないかって気がする。

私達はどんな目にあっても大量殺人なんか引き起こさないでしょ。

真壁友紀

整備工場の社長。

妻と4人の子ども。

長男の大牙から

クラスでいじめられているやつがいて、今自分は見ているだけだが、それもいじめに加担しているようで居心地が悪いと相談をうけたのです。

真壁は意を決して、

大牙に自分はいじめっ子だった、暴力も振るったし、結局そいつは学校に来なくなったと打ち明けました。

でも今になって反省している。

だから、苛められている子の味方になってあげてくれと頼むのでした。

大牙は

そいつの味方をしたらおれも苛められちゃうよと青ざめるのですが、

真壁はそのときは父ちゃんが全力でお前を守ると全身全霊で誓いました。

それが予兆ということはアニコン会場での無差別大量殺人の犯人の名前を聞いた時でした。

真壁が火をつけたいじめはクラス全体に広がったが、真壁は途中でいじめることをやめていました。

斎木が募金箱に銀色のコインを入れているのを目撃したからです。

斎木の立派さに圧倒されたのです。

ですが、いじめはなくならず、斎木は学校に来なくなりました。

真壁大牙

真壁友紀の長男

クラスのいじめはその後どうなったのか

大牙は苛めている奴らに

父親が昔苛めていたことを今はものすごく反省して苦しんでいると話していました。

それでいじめはなくなったのです。

真壁は自然にありがとうなと感謝していました。

斎木 均の母親が語る不登校になってからの均

均は不登校になってから千葉の全寮制のフリースクールに通いました。

中学は地元の公立に入学したけれど、通えず、

また三年間フリースクールに通い、高校入学資格を得て、受験しました。

でもその高校にも通えませんでした。

それでも大検合格を目指し、大学に入学。

三年間家の中で閉じこもっていたので、友人付き合いができず、大学も辞めてしまいました。

その後、正社員として就職しようとするも、就職氷河期で門前払いをされてしまいました。

なんとか面接をしてもらえても、引き籠った十代を過ごしたから人とうまく話せなくなっていました。

ファミリーレストランの荒井

情報料として10000円。

飲み物代は安達持ちで抹茶ラテを注文。

シングルマザー。

斎木は無口で黙々と働くタイプで優しかった、職場には親しい人はいなかったが、外にはプレゼントをあげる相手がいました。

いつの頃からか、お金が欲しいとぼやくようになりました。

身体を壊すような働きぶりでした。

辞める直前に(事件を起こす前に)飼っているインコが死んだそうです。

西山果南 コスプレイヤー

無差別大量殺人を録画していたのが同級生の亀谷だと知り、自分もアニコンにいたと話しかけました。

亀谷はカナのコスプレの完璧さに圧倒され、自分ももっと有名になりたいと

斎木の女性関係を調べる動画を出したため、カナは激怒します。

その女性の人生をぼろぼろにするつもりかと。

カナはネットの恐ろしさを力説するが、亀谷とは認識のズレがありました。

亀谷は動画を削除しました。

カナの言葉が亀谷の心に突き刺さったのです。

ファミリーレストランのコック 今岡

情報料、10000円。

コーヒーはLサイズと遠慮なし。

斎木を侮る気配がありました。

斎木は大人しくて陰気な人。

斎木のスマホに女からラインあり。

情報としてはこれだけでした。

今岡は斎木を見下していたとはっきりと言い、

就職氷河期だかなんだか知らないけど、安達のように優秀な人はきちんと一流企業に就職しているし、悪いのは全部自分以外だと思っている、自分に甘いと言ってのけました。

斎木を苛めた人物Aが特定された

安達は美春にブログを見せて、離婚を申し出ました。

美春は拒否、当面ブログの書き手を探そうということになりました。

被害者の母親 江成厚子

厚子は、

斎木均が最後に勤めていたファミリーレストランに透明人間として通っていました。

娘が無差別大量殺人の犠牲者のひとりでした。

斎木の半生を聞いて、苛めた連中にも責任があるのではないかと考えていました。

そこへ安達がやってきたことで、厚子は生きがいを見つけたのです。

厚子は安達を尾行して調べるつもりでした。

安達が本当にいじめっ子だった時、被害者の兄 隆章はネットに名前をさらすと言っています。

被害者遺族の会

集まりの目的は

悲しみと苦しみを共有すること

犯人家族への対応を考えることでした。

犯人家族に損害賠償を求める訴訟を行うことへの異論を唱えたのはヨネクラサキエでした。

二度目の集まりでは

数年前に起きた小学生を殺傷した事件の被害者遺族との引き合わせが出来るとの提案がありました。

そして裁判をすることへの意見も聞かれました。

ヨネクラサキエは40過ぎの息子がしたことの責任を両親に被せるのは反対という意見です。

ヨネクラは「私の息子はいい子でしたが、私の育て方がよかったからだとは思いません。息子は生まれながらにいい子だったんです。だから、犯罪者の親が育て方が悪かったとも思いません。と言い切りました。

その後、同じく裁判に反対した厚子と2人で話しました。

ヨネクラは犯人だけを憎んでいたい、自分の憎しみを広げたくないと話しました。

厚子はそれまで安達の話をしようと思っていましたが、ひとまず心にとどめておきました。

厚子 安達の自宅前で監視

厚子が安達の自宅前で監視していたところ、気が付かれてしまい、追いかけられました。

交番に飛び込み、何事もなく終わりましたが、

帰宅後、復讐はやめると結論を出しました。

復讐の刃が安達だけに向くのではないことがどうしても引っかかりました。

息子の隆章は納得がいかない様子でした。

厚子は安達一人の人生が終わるならまだしも家族も苦しむことになると訴えますが、

隆章は俺達は家族を殺されているんだから違うというのです。

結局隆章には辛辣な言葉をかけられてその場は終わりました。

ファミリーレストランのコック 今岡

情報料は価値があると判断したら10000円。

今岡は店に入ってきてから、まっすぐ安達のところへやってきて、コーヒーはLでと。

斎木から寄付を求められたことがあるというのが情報でした。

寄付を募っているサイトを見せられたそうです。

寄付はある程度までは順調に集まっていたらしいが、

病気の子どもの母親がキャバ嬢だということがわかったことから、集まりが悪くなったそうです。

お金は集まらず子どもは死んでしまいました。

安達は斎木の思い人を探すために探偵事務所に依頼をしました。

熊谷妃菜と娘 萌夏

探偵事務所に依頼した安達は熊谷妃菜の探し出しました。

熊谷が自転車のチェーンが外れて困っていたら、直してくれたのが斎木でした。

その後、偶然があり、斎木とは連絡先を交換しキャバ嬢として働く店にも2度来ました。

募金活動に斎木が加わっていたことなども聞きました。

熊谷は自分の娘が死んだことがあの事件の引き金になったことを認めました。

そして、安達に、

話を聞いて欲しい、

斎木さんは聞いて欲しいと思うと話し始めました。

娘の萌夏は拡張型心筋症という病気でした。

脳死した子どもから心臓移植をするしか助かる道がありませんでした。

でも日本では提供してくれる親はほとんどいません。

だから海外に行って手術を受けるしかない。

そのためには約1億円が必要とわかりました。

誰も相談できる人がいない熊谷は斎木に電話しました。

斎木は拡張型心筋症のことを知っていて、ネットで募金活動をして手術費用を貯めた人がいると教えてくれました。

Twitterアカウントも作って相互フォローを頼んで広めてもらうこともしました。

それも斎木が教えてくれました。

しかし誰かが熊谷がキャバ嬢だとネットに書いたことでお金が集まらなくなりました。

以前は励ましの言葉だったのに、嫌なことを言う人が増えました。

一度流れができてしまうと変えられない。

熊谷親子に興味を持ってくれていた人らもなんとなく雰囲気で離れていって、

悪口を真に受けたのではなく

なんとなく、

なんとなくのいやな流れで募金が集まりにくくなってしまいました。

結局間に合いませんでした。

寄付が集まりにくくなってきた頃、斎木がこんなことを言っていました。

人間はまだ進化が充分じゃないんだ

人間が本当に優れた動物なら、どうして同じ人間に嫌なことをしたりするんだ、

私や斎木さんみたいな人を社会的弱者って言うんだ、

社会的弱者に救いの手をっていうと自己責任っていう話になる、

まともな職についていない人は努力が足りないんだ、

それは弱肉強食の理屈なのに。

人間が作った社会は本当なら助け合って弱い者も生きていけるようにする仕組みだったはずなのに。

斎木はどうしてあんな事件を起こしたのか

熊谷は言いたくない、内緒だと答えました。

どうして斎木さんがあんなことをしたのか考えればわかるはずです。

私は斎木さんから何も聞いていません。

ニュースで事件を知ってびっくりした。

でもすぐに斎木さんの気持ちが理解できました。

斎木さんは私達親子のためにあんなことをしたんじゃありません。

理由

熊谷萌夏が死んだ日、アニコンが開催されていました。

萌夏は手術費用が足りなくて死んだのに、

そこでは何万人もの人がお金を消費していたのです。

それがアニコン会場を選んだ理由。

斎木の怒りは消え去らなかったが、歯止めをかけていたのは飼っていたインコでした。

そのインコが死んでしまったので斎木は実行に移ったのではないかと。

1年後のアニコン会場に向かったのです。

斎木を実行に走らせたものは絶望でした。

怒りにまかせて人を殺せば、悲しむ人が出てくるという想像もできないほど、斎木は絶望していたのです。

エピローグ

1ヶ月の休職を経て、安達は仕事に復帰しました。

安達を標的としたブログはなくなっていました。

パニック障害も快方に向かっています。

ある朝、ベビーカーごとエスカレーターを降りる親子を安達は助けることになりました。

降りたところで、母親から警戒したことの詫びとお礼を言われました。

見知らぬ人に親切にするのは勇気がいり、その欠如が積み重なり冷たい社会が出来上がってしまいました。

安達は昨日より少しだけよい一日になってくれることを願っています。

感想

無差別大量殺人の犯人である斎木がどういった人間であったのかは、生きている人からしか聞けません。

小学生の斎木がいじめられなかったら、彼はどんな人生を送ったのかを考えました。

結論、

斎木はどこかで絶望して同じことをしていたような気がします。

斎木は小学生の時から自分の意思で募金ができました。

そして安達にうざがられる程度には頭が良かったのだと思います。

不登校になっても、努力して高卒認定試験に合格し、大学にも合格します。

だけど、不登校以来、人と接していなかったため、大学にも通うことができませんでした。(これは母親が言っていたことです。)

不登校になった人間だったからなのか、

不登校になっていなかったら、斎木は普通の小学生中学生高校生になって、大学へも通い、就職もできたのかどうかは、もう一度やらないとわかりません。

世界に絶望しても関係のない人を巻き込んで殺し、自殺するのはいただけません。

安達の悪意のあるひとことでイジメが始まったとしても

それを思い出し、後悔したことで安達の贖罪は終わっていると思います。

優しい人間は生きづらい世の中だと思います。

登場人物らはひとつの事件をきっかけに

いろんな思いでイジメについて考えることをしました。

とても深いテーマのある物語でした。

お読みいただきありがとうございました。

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