微笑む人/貫井徳郎 考察・エリート銀行員はなぜ妻子を殺したか 誰よりも詳しく突っ込んでみた。

読書感想文

本の置き場所を確保するために妻子を殺したと自白したエリート銀行員の仁藤。

真相を突き止めるため、小説家が関係者にインタヴューするかたちでこの物語は始まります。

簡単に感想

エリート銀行員仁藤俊実が意外な理由で妻子を殺害しました。

物語は仁藤がわからないまま、終わってしまいます。

いったいに、人は他人のことをどれくらい理解できるものであろうか。

わかっているつもりで、本当は何ひとつ知らないのではないか。

読み終わった後も、モヤモヤしますが、

解決しようとする、落としどころをなんとか考える、それはそもそも無理なのではないか?

本人でさえ、自分のやったことに理由があったのかわかっているのか?

いろいろ考えてしまい、

また読み返してしまう無限ループでした。

なので傑作です。

安治川事件

仁藤俊実の妻翔子さんと娘亜美菜ちゃんが心肺停止で死亡

仁藤俊実は逮捕されました。

救急隊員が来た時、仁藤におかしいなところはありませんでした。

そして、

事故死と判断されました。

火葬場が混んでいました。

そこで、

仁藤は血相を変えて怒鳴るのですが、どうにもなりません。

結果として、火葬されるまでに通報があり逮捕されました。

目撃者は復讐を恐れてなかなか通報できなかったのですが、なんとか間に合いました。

仁藤俊実 主人公

犯行当時、30歳。

日本最難関の大学を卒業、メガバンクに勤務。

身長182㎝の細身の体躯で、顔の彫りが深く、一般的な感覚ではいい男の部類に入ります。

仁藤は犯行を否定しましたが、

司法解剖の結果、

妻の翔子さんの爪の間から仁藤の肉片が発見されたのでした。

動機として、

本が増えて家が手狭になったから、妻子を殺したと自供しました。

地元の幼稚園から

公立の小学校

中学校

難関として知られる有名都立高校

日本最難関の大学に現役合格

大学時代はボーリングサークルに所属

卒業後大手都市銀行に入行し、

同じ職場に勤める翔子さんと結婚。

銀行の行員ら 仁藤の印象

信じられないとしか言いようがないです。

こういう事件が起きても仁藤さんだけは犯人じゃないと考えます。

井荻智美 スポーツクラブの友人 仁藤の印象

仁藤に好意を持ちました。

友人関係にまで発展するが、誕生日に食事に付き合ってくれないかと仁藤に言うと、

妻や娘に対して不誠実な気がする

と断られてしまいました。

このような男性が妻子を殺すとは納得できないという感じがします。

仁藤の同期 香坂

格好いい奴というのが第一印象で、あたりが柔らかくて頭が良くて、女の子にもてそう。事実もててました。

常に冷静でした。

妻子を殺すなんて、何かの間違いじゃないかと今でも信じています。

仁藤が妻翔子と結婚する接点をセッティングしました。

翔子さんが仁藤の気持ちに不安を覚え、一時離れていたが、1年後復活しその後結婚しました。

香坂の妻が翔子から聞いた話

翔子と仁藤が1年離れていた理由、

本当に自分のことが好きなのかわからなくなった、

感情はちょっとした仕草とか言葉の端々とかにも滲むものだが、仁藤にはそれがありませんでした。

仁藤の担当弁護士 米盛孝一氏

第一印象で、仁藤は無罪だと思いました。

しかし、自分の直感は外れていて、勘がこんなにも狂ったのは初めてのことだと話していました。

人殺しなどしない人だと思ったわけです。

仁藤は自分の犯行を認めていたけれど、

あまりにも淡々としているので、何か事情があってあえて虚偽の自白をしているのだと受け取りました。

ですが、仁藤は主張を変えませんでした。

弁護士は仁藤のことが理解できなかったと語っていました。

感情の起伏が少ないように感じました。

通常の意味での喜怒哀楽が、仁藤の心には生じないという印象を持ちました。

裁判では一時的な心身網弱状態にあったと主張しましたが、

正直に言うなら、

もっと根本的な精神の部分的欠落があるのかもしれないと考えました。

仁藤の銀行での後輩 仮名で田坂さん

田坂さんは名前が出ることを極端に恐れていました。

彼は資金繰りの苦しい会社の社長が融資の相談に来たけれど、

審査が通らずお断りしました。

その後、その社長は自殺してしまいました。

仁藤さんに事の顛末を話したところ、

予想よりもずっとドライな声で

「弱肉強食は自然の摂理なんだよ。気にしてもしょうがないだろ」

田坂さんはもっと同情が籠った言葉が聞けるものだと思っていました。

その時から仁藤さんはただ温厚なだけの人ではないと感じました。

だからといって、仁藤さんが奥さんと子どもを殺したと考えているわけではありません。

田坂さんは仁藤あてに電話がかかってきて、伝え忘れていたことを詫びたことがあります。

仁藤は小声で「死ねよ」と言い、冗談を口にするよう笑っていました。

梶原敬二郎が白骨死体で見つかる

2007年5月11日金曜日から消息をたっていました。

宮ケ瀬湖は妻子殺害現場の安治川とも近く、

発見された白骨化した遺体は

仁藤と同じ職場で働く同僚の梶原敬二郎でした。

失踪当時30歳の独身でした。

これはただの偶然とは片付けられず、

神奈川県警は仁藤が関係していることをほぼ断定しました。

しかし、当時同じ支店で働いていた人に聞き込みを開始しても何も見つけられませんでした。

収監中の仁藤に尋問するも、関与を認めませんでした。

支店長

仁藤が妻子殺しで逮捕されたことに関しては、今でも間違いなんじゃないかと思っています。

仁藤の印象は人当たりの柔らかい男であり、人格者。

彼が怒ったり苛々したりしているところは見たことがありません。

仁藤は渉外課で担当エリアを訪ね歩いてお客様を探す仕事でした。

本当に優秀でした。

仁藤は同期より1年早く課長代理になりました。

1年上に欠員が出たためで、それが梶原敬二郎でした。

ただ梶原敬二郎と出世争いでの確執等はなく、

昇進のタイミングは年次順でした。

1年待てば、課長代理にはなれるのです。

課長代理になるために殺人を犯すなんてあり得ないです。

梶原は可愛げのあるというか愛嬌があり、目をかけていたので失踪後はがっかりしました。

梶原と仁藤の当時の後輩

後輩① 梶原の印象

支店長がかわいげがあると話したことに対して、普通ゴマすり野郎というのではないかと言っていました。

梶原さんの印象は最悪です。

たくさんの上司や先輩を見てきましたが、間違いなくダントツで嫌な奴でした。

梶原さんを嫌っている人は掃いて捨てるほどいました。

仁藤さんのわけないですよ。

マスコミ報道は信用できません。

本の置き場所がないから妻子を殺したって話がおかしいんです。

安治川事件が妙なのに、現場が近いから梶原さんの殺害も仁藤さんだなんて許せない。

梶原さんは母子家庭で育ち、苦労人。

後輩② 女性 梶原の印象

男尊女卑

誰からも嫌われていました。

学生時代英会話サークルでの出来事。

ひとつ年上の彼女A子(美人)にデート代や教科書代、旅行代を全て出させていました。

A子さんはキャバクラで働いていたそうです。

先に就職したA子さんは昼はOL.夜はキャバクラで学生である梶原さんを支えていました。

しかし、梶原さんは就職したのを機に一方的に別れました。

理由はキャバクラで働いていたような女とは付き合い続けられないから。

こんな男はろくな死に方をしないと思いました。

犯人は仁藤さんかもしれないということだけれど、

仁藤さんがやったのなら、それは世のため、人のためです。

仁藤さんなら正義の味方が似合うから世の中のダニをつぶしてくれたんじゃないですかね。

みんな喜んでいました。

後輩③ 1週間前の出来事 仁藤と梶原・布施・田辺

梶原が田辺の手柄を横取りするような真似をしたため、布施が怒ったのです。

仁藤に相談したところ、自分が梶原と話をしてみると言ってくれました。

そして、梶原は田辺に頭を下げました。

これが、梶原失踪一週間以内に起きました。

仁藤・梶原を知る人らに意見を述べてもらいました。

女性2人と男性2人が座談会形式で発言をしました。

仁藤さんが梶原さんを殺す動機はない。

でもだったらそうして梶原さんは死んだのだろうか。

小説家は再検証してみました。

一年待っていれば仁藤は課長代理になれたのだから、梶原を殺す理由にはなり得ないと断言してました。

だけど、一年待っているよりも手っ取り早く殺してしまえば、待つ必要がなくなります。

世の中には禁忌の観念が完全に欠如している人間もいるのです。

梶原の母親

敬二郎は舐められまいとしていたのです。

悟ったんです。

馬鹿にされたくなければ、他人を馬鹿にするくらいの人間にならなくてはなりません。

キャバ嬢として働き、梶原の奨学金返済をしてくれた彼女に対しても、

彼女自身が文句を言っているならともかく、他人には関係ないと言っていました。

仁藤と小説家との文通、面会

仁藤の書く手紙には異常性は感じられません。

仁藤に関してはすべてが謎でした。

白旗を揚げて引き下がるしかありませんでした。

仁藤の言葉にたいして、典型的なビブリオマニアのものだと思った。と書いてありました。

ビブリオマニアとは↓

仁藤の同級生 松山彰さんは21歳で事故死 中里が語る

宮ケ瀬湖で白骨死体(梶原)が発見されてから、

週刊誌や各メディアが仁藤について調べ始めました。

そして、

当時の大学同級生(中里)が週刊誌に話を持ち込みました。

仁藤には

大型ダンプカーの左折巻き込み事故でほぼ即死していた同級生がいたのです。

中里さんは匿名を条件に話をしてくれました。

仁藤と松山と中里は学食で昼飯を食べたり、話をしたりする間柄でした。

2人でいる時より3人でいる時の方がうまくいく感じがしていました。

中里は人当たりがいいってよく言われていて、仁藤も同じだと思っていたけれど、

仁藤は相手に合わせるのがうまかっただけかもしれないと

言っていました。

そして、これからが本題で、

松山は当時すごい人気のゲーム機を持っていて、授業の合間に遊んでいました。

うっかり落としてしまったことがあったらしく、角の塗装がちょっと剥げていました。

松山はゲーム機を自慢したり独占したりせず、2人にも貸してあげていました。

松山が死んでしばらくした頃、

大学内のベンチで仁藤がゲームをやっていました。

近寄ろうとしたのですが、

仁藤の持っているゲーム機の角が色が剥げているように見えました。

中里はそれが松山のゲーム機だと思ったのです。

まさかとは思ったが、声をかける気がなくなり、その場を去りました。

常識的に考えて入手困難のゲーム機が欲しいからって、人を殺したりしないですよね。

ぼくは仁藤がゲーム機を持っているのを見た瞬間、なんとなくいやなものを感じはしましたが、あいつが松山を殺したとまでは考えませんでした。それはそうでしょう?そんなこと、考える方がおかしいじゃないですか。

中里は本の置き場所を確保するために妻子を殺す人間ならば、ゲーム機を奪うために人殺しをしてもおかしくない。

そんな風に考え直したわけですね。

ただ当時の刑事にもそのことは話してありました。

刑事 上国料 かみこくりょう

上国料が松山の事故現場まで足を運んだのは、

手が空いていたことと、現場が署から近かったからでした。

50がらみのトラック運転手は

どうして轢いてしまったのかぜんぜんわかりません。そして

そういえば、ひとりじゃなくてふたりで歩いていたような気がします、、、

そこから捜査が始まりました。

事故現場周辺で目撃者を探しましたが見つかりませんでした。

次に松山の交友関係をあらいました。

すでに会っている中里さんの話はおいといて

上国料は大学内で聞き込みを開始しました。

仁藤には胡散臭さを感じました。

刑事だから何か勘がはたらくのでしょうか。

そして仁藤を尾行しました。

仁藤にはいい加減にしてくれないかと言われても上国料はやめませんでした。

仁藤から話があるので、

今夜10時渋谷センター街を歩いてくださいと言われました。(とうとう観念したのか?)

その通りにしましたが、三往復しても現れませんでした。

翌日、仁藤が弁護士を伴い、上国料に対して被害届を提出しました。

上国料は警察を懲戒免職になりました。

(上国料が渋谷センター街をぶらぶら歩いている時間)

大学の近くで上国料が仁藤を殴ったということでした。

目撃者は仁藤と面識がない学生でした。

上国料は抗いますが、課長に言われます。

状況はお前が嘘をついていることを物語ってるんだ。

目撃者はなんの背後関係もない、善良な大学生だ。話の内容に矛盾はないし、嘘をつく必要性もない。

仁藤は実際に顔に怪我を負っていて、医者の診断書も提出している。お前には仁藤を殴る動機があり、問題の時刻に何をしていたか証明できず、その上説得力のない理由に基づいて仁藤にまとわりついていたことを大勢の学生が証言している。お前はあちこちに顔を売りすぎた。状況証拠も直接証拠もこれだけ揃えば、おれにはもうどうしようもなんだよ。

冤罪ってこんな風にできてしまうのですね。

上国料は警察を辞めた後も独自で捜査を続け、

仁藤が新宿で上国料と似た背格好の人物と話しているのを目撃した学生がいることを突き止めました。

これが事件のからくりだと確信したそうです。

大学内で仁藤について聞いて回ったとき、ほぼ全員がいい人だと評しました。

恐ろしいことです。

仁藤はいい人の仮面を被った極悪人です。

上国料はなぜ殺さなかったのでしょうね。刑事だから手ごわいと思ったのでしょうか。

女子学生 色白の子とぽっちゃりの子

ぽっちゃりの子:いつも紳士的でいい人です。

色白の子:仁藤とは同じ塾でバイトをしていて、結構話します。バイト帰りにお茶したことはあります。

付き合っている人はいないと思います。殺された妻と同じ名前:ショウコ

高校生以前の仁藤

高校当時:あまり目立つタイプではなく、口数が少ない地味な存在でした。

仁藤の実家:お引き取りくださいと言われ、話しは聞けませんでした。

近所の聞き込み:仁藤俊実が小学生のときに一家で引っ越してきました。

仁藤は家の向こう隣の犬を怖がっていました。

中学の同級生①山崎さん:テニス部で一緒でした。勉強ができるタイプでしたが、運動もそこそこいけました。

小さい犬に転ばされて大会を棄権しました。

中学の同級生②三笠さん:仁藤は誰とでも仲良くする代わりに特定の親しい友人がいたわけではありませんでした。仁藤だけ大人びていました。

犬を異様に怖がっていました

小説家はまた仁藤の実家近所に戻ってみました。

向こう隣の犬がどうなったか聞きにいったのです。

向こう隣の家は犬より先にご主人が不幸な亡くなり方をして引っ越してしまったのでした。

向こう隣のご主人の遺族 堀内さん

ご主人は大型のダンプカーに轢かれて死亡

会社の借り上げ社宅だったため、ご主人が死亡した後、住めなくなりました。

俊実君は

うちの犬を怖がっていつも避けていました。

うちの犬は見境なく吠えるようなことはなかったんですけど、なぜか俊実君のことは嫌いだったらしく、

いつも吠えかかっていました。

首輪で繋いでいたし、門も閉めていました。

それでも俊実君が低学年のころは吠えかかられて泣いていました。

そんな子が動物を殺したりできるわけがありません。

主人は横断歩道を渡ろうとして左折してきたダンプカーの死角に入ってしまい、そのまま巻き込まれてしまったんです。

小説家は仁藤の関与を仄めかすが、堀内さんは最後にこう話しました。

中学生に人殺しなんて、常識で考えて無理です。

ましてあのいい子の俊実君が、なんの恨みもない主人を殺すなんてあり得ないことです。

小説家の仮説

堀内さん夫婦は隣家の所有者ではなく、単なる賃借人でした。仁藤はその事実を知っていたのだと思われます。

仁藤は隣家の犬を嫌っていました。

犬は怖いから近寄れないが、人間は怖くありません

隣家から犬を追い払うためにその飼い主を殺したのではないか。

仁藤 中学生以前

小説家は”突然の死”をキーワードに仁藤の実家周辺をふたたび歩き回りました。

「この近辺で事故死した人はいませんか。」と尋ね回りました。

古い団地で、

そういえば、誰かが階段から落ちて亡くなったなんてことがあった気がするけど

という証言に行き当たりました。

階段からの転落事故

それは非力な子どもが他人を殺すのにもってこいの手段ではないだろうか。

小説家は興奮しました。

中学の同級生山崎さん、三笠さんにも協力をあおぎました。

仁藤と同じクラスの女の子(ショウコ)が父親を事故で亡くしていました。

ショウコという名前は仁藤の妻と同じ名前だし、

大学時代にバイトが一緒だった女の子とも同じです。

仁藤はショウコという名前にこだわりがあったのではないだろうか

似た人を赤羽の飲み屋で見かけたとの情報から行ってみました。

ショウコという名前の女性がいるかどうか尋ねると、30前後のカスミが席につきました。

カスミはショウコはもう辞めたというのですが、小説家は食い下がりました。

するとカスミは

お客さん、小説家じゃないですかと顔バレしていました。

カスミは小説家にぐいぐい聞いていきます。

そして、ショウコのことを訊いておいてあげると言ってくれました。

小学校の同級生ショウコ①

「小学校三年生から六年生までずっと同じクラスでした。

親しくなったのは休み時間に泣いているときに、気にして声をかけてくれたことからでした。

あたしは子どもの頃、父に虐待を受けていました。

母が再婚した相手なので、血の繋がりはありません。

義父は母にもあたしにも暴力を振るっていました。

性的虐待も受けていて、母は知っていても見て見ぬふりをしていました。

実の母すら味方になってくれないことを他の誰かに言えるはずもありません。

あたしはただ辛さに耐えて泣くだけでした。」

「でも仁藤さんには話したんですね」

「理由を言わないあたしをずっと慰めてくれたので、最後には話しました」

「具体的な虐待の内容もですか?」

「小学生だから、具体的に話したってわかってもらえることではないです。いやらしいことをされるというような表現で話したはずです」

小説家は仁藤が父親の死に関わっているのではないかと疑惑をぶつけると

ショウコは腹をたてて、去っていきました。

同級生ショウコ② 本当のこと

「今度こそ本当のことをお話します」ショウコから電話がありました。

ショウコはものごころついた時から自分に起こった出来事を語り始めました。

この最終章は読み込むと面白いです。

母親が水商売で生計をたて、ふたりで暮らしていたこと、

その後再婚して運送会社に勤める義父が出来、最初の頃はうまくいっていたこと、

義父が事故を起こし、仕事をやめ、

母が水商売をまたはじめたこと、

義父が最初は母親、次に自分に暴力を振るうようになったこと、

そして、俊ちゃんと小学校三年生の時、同じクラスになったのです。

学校は別に面白くありませんでしたが、家よりはまし。

俊ちゃんは回りのみんなより大人でした。

ショウコに話しかけてくれるようになりました。

ショウコがつっけんどんにしてもまた話しかけてくれました。

ショウコがひとりでいようとしていたのは、強く気を張ってないと辛い毎日に耐えられなくなると本能的に知っていたからです。

俊ちゃんがそばにいてくれる安心感から、ショウコは弱くなってしまいました。

ある時どうしようもなく抑えが利かなくなって泣いてしまいました。

俊ちゃんは頭に手を置いて撫でてくれました。

泣き止むまでずっと頭を撫で続けてくれました。

五年生になり義父の暴力はエスカレートし、ついに人としての道に外れることまで始めました。

そのことを俊ちゃんに知られたくなかったので避けていました。

俊ちゃんがしつこく何があったのか聞いてくるので、ショウコは腹を括りました。

ショウコは俊ちゃんを団地の部屋に呼び、虐待の一部始終をそばで聞かせました。

音だけを聞いた俊ちゃんが何が行われているか理解したかどうかはわかりません。

ただひどい目にあっていたことはわかったと思います。

ショウコは義父に消えてもらうしかないと考えました。

そして、俊ちゃんに手伝ってもらうことにしたのです。

団地の階段での出来事

ショウコが俊ちゃんを風呂に呼び込み、

ショウコは台所と居間の間のドアを閉めておきます。そうすると俊ちゃんは風呂場から出て台所に行けます。

ショウコが義父を引き付けている間に

俊ちゃんには冷蔵庫のビールを全部持ち出してもらうことにしました。

そして、ビールを持って廊下に出て、洗濯機の裏に隠れていてもらうことにしました。

恐ろしいほど、義父はショウコの読みどおりに動きました。

冷蔵庫にビールがないので、酒屋に行くといって出ていったのです。

ショウコは俊ちゃんに

階段を降りようとしている義父を転ばしてくれと頼んでありました。

しかし、俊ちゃんは洗濯機の裏で震えていました。

ショウコは俊ちゃんを立たせようとしましたが、

俊ちゃんはできないよと情けなく首を振りました。

ショウコは瞬時に決断し、義父が階段の最上段に差し掛かったとき、体当たりしました。

それから俊ちゃんを団地の外に送り出しました。

義父は事故死で片付きました。

その後、ショウコは転校し、会うこともありませんでした。

小説家はこれが仁藤の原点だと衝撃を覚えました。

ショウコの義父を仁藤が殺しはしなかったものの、

人を殺しても捕まらないことがあるとわかってしまったんだと思いました。

殺人が安易な解決方法になっていったのではないだろうか。

ショウコはすべてを打ち明けることで、仁藤の無実を証明したつもりだったかもしれないが、

かえって常人には理解できない動機で人を殺すことができる仁藤はこうやって生まれたのだと思いました。

カスミ

ショウコは虚言癖があると話してきました。

世の中には息をするように嘘をつく人がいるんですよ。

小説家に向かい、

ショウコが義父を殺した場面を目撃したことがトラウマになって、仁藤という人は殺人をなんとも思わなくなった。そういう解釈ですよね。

ショウコのストーリーは

淡い恋心を抱いていたクラスメートが性的虐待を受けていた。

なんとか助けてあげようとしたけど、ぎりぎりのところで怖気づいてしまう。

それでも女の子は地獄から抜け出すために自ら手を下す。

少年はその現場を見てしまいショックを受け、いつまでも忘れない。そんな体験が後に冷酷な殺人鬼に仕立てた。

わからないのって落ち着かないですよね。

本の置き場所がないから妻子を殺したとか

一年後の昇進が待てなくて人殺しするとか

わけがわからない。

そんなおかしな人にもわかりやすいトラウマがあれば、納得できます。

世間の人はわかりやすいストーリーを求めているんです。

小説家はショウコとカスミのどちらの話を信じるかはもう1度あって確認してみるよと答えました。

カスミはショウコは男だったと話し、うっすらと笑いました。

嘘つき

小説家が会ったショウコは男でした。

という事実に思考回路が麻痺しました。

しかし、ショウコの情報を教えてくれた三笠さん(仁藤とショウコの同級生)は嘘をついていないと思われます。

ショウコが男だと言ったカスミが嘘をついているかもしれないと真実を確かめるためにもう1度ショウコに会おうとしますが、

携帯電話は不通でした。

カスミの携帯電話も不通でした。

ということはショウコもカスミもどちらも嘘つきだったと気がつきました。

小説家は赤羽の飲み屋に行ってみました。

ママはカスミは辞めたと教えてくれました。

そして、カスミの本名がショウコだと教えてくれました。

カスミがショウコでした。

小説家の解釈

小説家は納得できる解釈をあれこれ考えました。

となると偽りのショウコが話した内容は全部嘘だったのか、

偽りショウコの実体験か

ショウコ(カスミ)の過去なのか。

ショウコ(カス)は仁藤の過去を探る私(小説家)が目障りだったと思われます。

なので、偽りショウコを差し向けたのではないだろうか。

ショウコ自身が偽りショウコにストーリーを預けていたら、それには真実が含まれているかもしれません。

やはり過去に何か事件があって、仁藤は影響を受けたのだが、

ショウコはそれを封印したかったんだと思います。

これが納得できる解釈です。

人はわかりやすいストーリーを聞いて安心します。

小説家の解釈も自分が納得できるようにしただけであって、

本来はとても他人には理解できない部分を切り捨てているのではないか。

地味な印象だったショウコはもう顔を思い出すことができません。

ただ、うっすらと浮かべていた笑みだけは妙に強烈に記憶に残っています。

ショウコが浮かべる笑みは、

何を考えているかわからない仁藤の薄い笑みにそっくりでした。

感想①

人を殺してみたかった。

これは殺人したある犯罪者が言ったと言われています。

人間は落としどころを見つけるのが得意です。

そして、納得する解釈を求めます。

人を殺すのに

本当は理由なんてないのかもしれません。

なんか自然とそうしていたのかもしれません。

ゴミを捨てるように、邪魔な人間は殺してしまった。

それが正解なんじゃないかとも考えます。

人間ってそういうことができる生き物だと思います。

ひと昔前、

貧しい農村では女児が生まれると働き手にならないからと、生まれてすぐ田んぼに捨てていました。

障害のある子はお産婆さんが生まれてすぐ殺してくれました。

現代では、お腹にいる時に検査をして、障害があるかないか調べてくれます。

それは100%わかるかといえば、そうではなくて、

決断はお腹の赤ちゃんのご両親に委ねられます。

何が言いたいのか。

人間は残酷なんです。

もちろん現代社会では殺人などできない人ばかりです。

でも違う国では戦争で人が殺し合っています。

何か理由をつけて、人を殺すことに躊躇しない人間がいてもおかしくないのかもしれません。

感想② 私の考える仁藤俊実

仁藤は理由があれば、人を殺してもいいという考えの持ち主です。

同級生ショウコにひどいことをしているショウコの父親は殺されていいのです。

真実は謎のまま、

ショウコが性的虐待を受けていたことさえ怪しい。

受けていない可能性もあるし、そもそも作り話かも。

単に母親を取られて憎らしかったのかも。

自分の嫌いな犬を飼っている家のご主人は殺してもいいのです。

ご主人が死ねば、引っ越すことがわかっていたことで、迷いはありません。

ゲーム機が欲しかったので同級生を殺しました。

すぐにゲーム機を自分のものにしたかったので、容赦しませんでした。

本の置き場所が欲しかったから妻子を殺したのです。

本のページを慎重に爪でめくる仁藤は本が劣化するのが許せなかったのです。

妻は仁藤の心に入ってきたことで殺したのかもしれません。

仁藤の心に入ってこようとする人物は好かないのかもしれません。

梶原の殺人は昇進を1年先にしたかったからなのかはわかりません。

他の銀行員からの話で、嫌な奴だから殺したのかもしれません。

もしかしたら、梶原を支えてくれた女性はショウコという名前だったかもしれません。

ほとんどの人間が仁藤は良い人といいます。

しかし、本質に気がついた人間もいます。

田坂は仁藤が殺人をするわけないとは言いつつも、自分の何かが仁藤の怖いとこに気がついてしまい、

絶対に仁藤にはこの発言がばれてはいけないと本能で感じています。

先の妻はそこに気が付いてしまい、殺人対象になってしまったのかもしれません。

子どもは本を汚す恐れがあります。

そもそも父親の本性に気がついていた可能性もあります。

子どもは悪人見分けるからね。

仁藤の同級生が事故死していることをわざわざ週刊誌に売った中里は、何年もこのことに引っかかっており、

折り合いをつけるためにも話しをもっていったのだと思います。

では刑事であった上国料はなぜ殺さなかったのでしょう。

自分(仁藤)が上国料の捜査対象であったため、

事故死に見せかけて殺すのは難しいと思ったのだと思います。

他にもちょくちょく殺しているかもしれません。

観念する

自由に生きていきたいから、刑務所には入りたくない。

だから殺人に至るまでは結構ちゃんと考えていると思います。

でも、証拠が揃ったら、仕方がないよね。

観念して、自白もします。

それが世間には受け入れられないとしても。

仁藤は観念するのは早いけど、証拠がないと認めないのはさすがです。

いやいや、案外梶原の殺害は違う人間とも考えられるし。

これは小説ですが、現実はそれの上をいくからね。

本当に怖いです。

個人的に

最近義理の父親に性的虐待を受けている受けていたせいで、精神面がやばくなるという映画小説ドラマが多くてというか多すぎます。全部それに絡めれば、悲しい女の子や女性の出来上がりです。誰も幸せになれません。再婚して、妻の連れ子が女の子であり、普通に育つご家庭が多い中、このような内容が増えてしまうと嫌だなあと感じます。

お読みいただきありがとうございました。

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