落下の解剖学/愛息の視覚障害を乗り越えられなかった夫婦・考察すると奥が深い映画

雪山 映画鑑賞

考察すると奥が深い映画と言える。

持論になるが、

この夫婦は息子の視覚障害という問題を乗り越えられなかった、これに尽きると思った。

それから、

誰かが自殺や事故で死亡したとしても

その関係者は

あやしいところがあってもなくても、

とことん調べられてしまう。

そして

その関係者に

無罪の判決が出ても、

以前の自分や生活に戻るのは難しいと感じた。

2023年・第76回カンヌ映画祭コンペティション部門で、

女性監督による至上3作目の最高賞・パルムドールを受賞しました。

第96回アカデミー賞でも脚本賞を受賞しました。

あらすじ①

サンドラは小説家らしい。

居間で取材を女性から受けていた。

サンドラは実体験を小説にすることもあった。

女性から、

息子の事故の描写(この時は何の事故かわからない)は読者にはショッキングではないか?と聞かれた。

サンドラは

実体験は面白い物語を生むと答えた。

その時、

息子のダニエルは犬をお風呂に入れていた。

突然大音量で音楽が鳴り始めた。

サンドラは女性に

夫サミュエルが作業を始めたと伝えた。

音楽は1度止まるがまたかかった。

女性は取材途中で山荘を後にした。

音量は取材を続けるには大きすぎたと思う。

女性が自動車に乗った時、

ダニエルも散歩のため、居間の出口(2階)から外に出てきた。

サンドラは3階のテラスから女性に手を振った。

ダニエルが散歩から戻ると

サミュエルが死んでいた。

大音量の音楽はそのままだった。

あらすじ②

母親のサンドラは夫を殺した犯人とされ、裁判になる。

取材の女性が去り、

ダニエルが犬と散歩に出て、帰ってくるとサミュエルは死んでいた。

サンドラは取材の女性が帰った後、

サミュエルと話したと証言した。

その後耳栓をしてベッドで少し仕事した後昼寝をしたとのこと。

サンドラが昼寝をしていた隙に誰かが忍び込んで、

サミュエルを殺害したとは考えにくいため、

サンドラは、あらゆる角度から疑いの目で見られ、

細かいところまでが洗いざらい調べ尽くされる。

視覚障害のあるダニエルも関係者として、

時系列の整合性を厳しくチェックされた。

最初の証言では

外で両親の話声を聞いたとのことだったが、

検証すると外では全く聞こえないため、

家の中で聞いたと証言を翻した。

証人や検事により

夫婦の秘密や嘘が暴露されていく。

死んだ夫は夫婦の会話を録音していた。

それは死ぬ前日の録音だった。

夫が落下して死亡しなければ、この家族のいろいろは露見しなかった。

あらすじ③

息子ダニエルの失明は父親サミュエルの落度だったと

サミュエルもサンドラも思っていた。

サミュエルがダニエルを迎えに行くはずだったのに、執筆活動に夢中になり、シッターに依頼。

ダニエルは事故にあってしまった。

そのことで、夫婦の仲はだいぶおかしくなっていった。

録音データにより、

サンドラが浮気をしていたこと、

サミュエルの小説の一部を自分の小説に盗用していたこと、

激しい言い争いをしていたことがわかった。

サンドラはサミュエルが抗うつ剤を飲むのをやめてしまったことや、

酔って嘔吐した時に多くの錠剤を発見したことから、自殺未遂したのでは?と証言。

しかし、

サミュエルのかかりつけ医からは

サミュエルから薬を減らそうと相談を受けていたので、

飲むのをやめたというのはおかしいと証言した。

あらすじ③ ダニエル

ダニエルは悩んでいた。

ダニエルは裁判の傍聴をずっとしていた。

なので、自分の知らなかったことも知ることとなる。

サミュエルが精神科に通っていたことも

抗うつ剤を服用していたことも知らなかったのだ。

サンドラの証言でサミュエルが酔って嘔吐した時、多量の錠剤を吐いたということもだ。

ダニエルは実験をした。

愛犬スヌープの餌にアスピリンを混ぜて食べさせてみた。

スヌープは眠り続け、様子がおかしくなった。

付き添いの女性を呼んで手当をし、スヌープは一命を取り止めた。

ダニエルはスヌープの匂いをかいでいた。

あの日の匂いと同じだった。

ダニエルは思い出したのだ。

スヌープが眠ってばかりいて、水しか飲まなくなった。

そして、ダニエルは父親に病院に連れていってもらったことがあった。

その道中、

父親は音楽もかけず、黙り込んでいた。

「スヌープはいつかはいなくなる日がくる、辛いだろうが覚悟しておいて」と話した。

スヌープはまだ若い犬でどうしてそんなことを言うのかわからなかったが、

それは父親がいなくなるという意味だったと思うと証言した。

スヌープにゲロの匂いがしたのだが、

それはスヌープが何かで具合が悪くなり、吐いたことによるゲロ臭だと思った。

そうではなくて、父親が吐いたゲロをスヌープがなめてしまったことでスヌープの具合が悪くなったし、

ゲロ臭もついたのだ。

裁判所がダニエルを保護するためにつけた女性にそれらを話して、

誰を信じていいかわからないと泣いた。

ママがパパを殺していないと信じきれないのだ。

それは前日の激しい喧嘩を聞いてしまっていたからだ。

これからどうしたらよいのかもわからなくなっていた。

女性は

判断しかねることがあっても確信したふりをするのではなく、決めることが大事だと教えてくれた。

あらすじ④ ダニエルの最後の証言

証言前日、ダニエルは屋根裏の窓を開け、下を覗く。

証言。

パパの自殺なら理解できる気がする。

犬の具合が悪くなり病院に連れて行った時

車の中で話したこと。

分かってるか

普通の犬とは違う

すごい犬だ

とても優れている

お前が何をしたいか考え

お前の動きを予測し

危険から守る

お前に何が必要かを

考えながら生きてる

いつも心を配り

疲れてるのかも

そしていつの日か

力尽きるかも

そして最後に言ったんです。

「いつかはいなくなる日が来る」

「つらいだろうが覚悟しておけ」

「お前の人生は続く」

今思うといなくなるとは自分のことです。

(サミュエルが自分自身のことを言った)

検事は陪審員に向かって

「これは主観的なものなので参考にならない」と言った。

あらすじ⑤ サンドラ無罪判決

サンドラは無罪となった。

だけど、元の母と子の関係にはなれない。

ダニエルは両親が不仲になったきっかけが自分の目のせいだと思うだろうし、

何なら父親も自分のことへの罪悪感で死んだのだと思う。

サンドラは

サミュエルのいないこれからは自分ひとりでダニエルを向き合っていかなければならない。

サミュエルが死んだことは自分が責めたことが原因だと一生思うだろう。

家に帰った2人は

お互いに会うのが怖かったと言っているのが印象的だった。

感想

事故で視力障害になったダニエルは4歳だったからか、両親を責めたりはしていない。

父親のサミュエルは迎えに行かなかった負い目があり、サンドラに責められもした。

真面目な性分でダニエルに寄り添いすぎたのかもしれない。

限界だったのだ。

サミュエルはサンドラがダニエルの世話をあまりしないと言っていた。

(ただ、サミュエルは自分の限界まで世話をしていたと仮定すると

他の誰でもサミュエルは超えられなかったと思う。)

サンドラもダニエルに障害が残ったことにショックを受けていた。

サミュエルと乗り越えたかったとは思うが、

彼はセックスを拒否、多分できなくなっていたのだろう。

サンドラは

精神安定のためといって、外部にそれを求めた。

もともと持っている性格もあるので、何とも言えないが、

サンドラは抜け道をいくつか持っていたのだと思う。

事実を盛り込んだ小説を書くのもその抜け道のひとつだと思う。

一方、サミュエルはダニエルのことを抱え込み、その他のことまで頭が回らなかった。

(小説を書いたり、家の改築など)

いつもダニエルのことを考え、動きを察知し、先回りをしてやってあげていたと思う。

家の内外にテープを貼り、どこにいるかわかるようにすることもそうだ。

もし、ダニエルが事故にあわなければ、

3人は仲良く暮らしていたかもしれない。

無罪判決の夜、ダニエルを寝かせ、サンドラはカーディガンを羽織り、横になる。

スヌープがやってきて寄り添ってくれた。

ダニエルがママは殺していないと言ったのは正しいと思った。

お読みいただきありがとうございました。

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