ミハスの落日/貫井徳郎著 著者が実際に旅行して取材したらしい。海外短編集。

読書感想文

5作品があり、どれも楽しめるものです。

私はカイロの残照が好きです。

復讐する物語は引き込まれます。

人の命を取ることよりもその人の人生を壊すことの方が遥かに相手にダメージを与えるのではないかと思います。

ミハスの落日

ストックホルムの埋み火

サンフランシスコの深い闇

ジャカルタの黎明

カイロの残照

あとがき

ミハスの落日

若き日の自分を悔いることは誰でもあることです。

ビセンテは調子に乗ってしまい、アリーザの気持ちを考えることなく、自分の好奇心を満たしてしまいました。

それを悔いていながらも改めることが出来ず、老いてやっとそうしようと思った時には、アリーザは死んでいました。

ビセンテはお金持ちになっていたので、アリーザの息子に財産の一部を相続してもらいたいと考えています。

ビセンテにとってアリーザは隣人で、最初の友人で幼馴染でした。そして初恋の相手です。

バルセロナで劇的な再会をしたビセンテとアリーザ。

アリーザは驚くほどの美女になっていました。

かつて抱いていた好意と改めてアリーザに恋をしたのかわからないくらい、調子にのっていました。

アリーザが触れて欲しくない出来事を、ビセンテは彼女と話し続けます。それが原因で2人はまた疎遠になります。

アリーザの息子は死際、母親から聞いたことをビセンテには言わず、ありがたく財産を受け取ることを承知するのでした。

ボタンのかけ違いなどと言う言葉がありますが、2人は結ばれない運命だとしかいいようがないです。

幼児ポルノの男に狙われていたのはビセンテであり、心配したアリーザが先にその男の元に行ったため、彼は助かったのです。9歳のアリーザは命がけでビセンテを守ったのです。男が感電死し、部屋が内側からロックされ密室殺人という謎を残し、第一発見者はビセンテでした。ビセンテはアリーザに運命の再会をし、舞い上がってしまい、アリーザの忘れたい記憶をこじ開けたのです。さらに大人になった後、ビセンテは後悔します。

ストックホルムの埋み火(うずみび)

埋火とは灰の中に埋めた炭火のことです。

比喩として使われる時の意味は

「人の心の奥に潜む、一見忘れられたように見えて実は消えていない感情・想い」

これをあらかじめ知っておくとこの物語への理解が深まります。

妻を愛していながら、父親の幻影に追われ、仕事人間になってしまったロルフ。

妻とは離婚したが、父親とは以前よりうまくいくようになりました。

クリスはモデルのように美しい女性です。

ブラクセンはレンタルビデオ店の店員でクリスに好意を持っていました。

クリスの借りたビデオをブラクセンは感想を共用したいと観ていました。

ブラクセンはクリスのストーカーになっていきました。

無言電話の折、正体がばれたと思ったブラクセンはクリスを殺す決心をします。

殺そうと訪ねるとすでにクリスは何者かに殺されていました。

これまでに自分が出した手紙を回収しようと部屋に入ります。

何者かはクリスの恋人でした。

ブラクセンは男をナイフで刺し殺しました。

物語では

美人のクリスティーナ・シュベーリンと恋人のヴェルナー・クリスチャンソンのクリス部分をひっかけて、わかりにくくしています。

ブラクセンはクリスを殺してはいないが、彼女が死んでいるのを見つかると自分に疑いがかかると思い、埋めたのです。

ロルフが父親譲りの捜査で調べなければわからなかったかもしれません。

殺す決心をしたのは男の方のクリスだったのです。

ブラクセンは醜い自分勝手な主張を繰り返し、顔の良かった父親を憎んでいたことを露呈しました。

ロルフからしてみれば、それは自分でした。

ロルフは元妻モニータを運命的なものを感じるくらいに愛していたのに、父親と同じ仕事につくことで、何かが違ってしまいました。

感想を語るには難しいと思いました。

父親のことなど、そう意識していなかったはずでした。

ですが、いろんな出来事の中で必ずや父親の幻影に邪魔?されてしまう男の悲しい生き方なのかな?

サンフランシスコの深い闇

サンフランシスコ警察のスティヴィーが保険金を早くパーシーに払ってやってくれとやってきました。

パーシーは夫を3回も亡くし、そのたびに保険金を受け取っているのです。

1回目と2回目は偶然でも3回目は怪しいということで警察は捜査を始めていて、その協力を男に依頼しました。

男はスティヴィーに頼まれていることは伏せて調査を進めます。

パーシーが美人なので、スティヴィーは好意を抱いているのです。

この物語の結末は闇というより病みなのか。

パーシーには娘リディアがいますが、本当はパーシーの姉の子どもでした。

最初のパパはリディアのママを殺したと祖母が言っていました。

リディアはママが好きだったので、

魔法陣で、パパがいなくなれと願ったのです。

1回目と2回目はそれでパパが死んだことで、願いが叶ったと思いました。

しかし3回目はなかなかパパが死なないので、ベランダに出た時にちょっと押したと告白したのです。

パーシーが憔悴していたのは、リディアが暴力を働いていたとはいえ、そういう人間は殺してもいいと考えていることでした。

パーシーが保険金目当てに殺人をしたのではありませんが、今後この深い闇はどうなるのかと思うと暗い気持ちになりました。

ジャカルタの黎明

黎明というのはレイメイと読みます。

意味は夜明け。

ディタは娼婦を憎み、殺します。

好きな男と結婚したけれど、男は借金はそのままで自分を捨てて逃げてしまい、借金のかたに娼婦になりました。

男を見かけたけれど、娼婦になっていることを知られたくなくて、隠れてしまいます。

寛ぎを感じるのは日本人のお客様、トシ。

その日本人も人殺しでした。

あんたには俺と同じ血の匂いがした。

夜が明けるとまた娼婦としての1日が始まります。

働いても働いても借金はほとんど減らないのです。

娼婦を殺し、娼婦がいなくなれば、娼婦の仕事がなくなると脈絡もなく考え、

自分を保っていたのかもしれません。

なんだか悲しい物語でした。

カイロの残照

マフムードは元妻の誤解を解きたいが、さらなる軽蔑を恐れて言えないでいました。

行方不明の夫を探しにきたアメリカ人ナンシーのガイドをすることになったマフムード。

彼は愛妻家です。

妻のガミーラは美しく愛らしいふたりの子供、品のいい住宅地にある我が家、マフムードは満足でした。

マフムードはガミーラを手に入れるためにやってしまったことを悔いることになります。

それは衝撃的でした。

ことわざでいえば、因果応報。

ナンシーの父親はクレジットカードをスキミングされて大きな借金を背負わされてしまい、死んでしまいました。

ナンシーは将来必ず犯人を見つけ出し、復讐をすると誓いました。

警察に訴えても今さら取り合ってくれないとわかっていたので、マフムードの幸せを壊すことで復讐をはたすことにしたのです。

イスラム社会では好きな女と結婚するために、

結婚式の費用、家の購入、家具も全て男が揃えなければなりません。

経済力がないと好きな女性とは結婚できません。

マフムードは魔がさし、ネックレスを万引きし、それをスキミング詐欺の一味に見られて、

脅され、一味に協力してしまいました。

それで報酬を得て、ガミーラと結婚できたのです。

ナンシーはそれを突き止めました。

自分とマフムードが浮気しているような写真を協力者に撮らせて

それをガミーラに送ったのです。

ナンシーと浮気はしていないのですが、どうしてこのような写真が送られてきた理由をガミーラに説明しなければなりません。

どちらにしろ、ガミーラには軽蔑されるはずです。

人を不幸にしておいて、自分だけ幸せになろうなんて虫が良すぎるというのは世界共通でした。

まとめ

貫井徳郎はすごいと素直に感じました。

5作品すべて、映画化できるような内容です。

読後に考えさせるようなものが好みなのですが、これは当たりでした。

映画も小説も作り物ですが、うなりたいです。

んんん~良かったって。

この短編集は読んで欲しいなと思います。

お読みいただきありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました